複数人でおなじゴールに向かってものごとを進めていたつもりなのに、気づいたらそれぞれ違うゴールに向かっていたということがあります。違うゴールに向かっていると、達成しようと思っていたことがなかなか達成しません。たとえば、ソフトウェアがなかなかリリースできない、といった具合です。向かっているゴールが違うと達成したいこと以外の作業をしています。達成に向けた作業をしていないので、なかなか達成しないことはしょうがありません。
この「気づいたらそれぞれ違うゴールに向かっていた」という状況を避けるための方法はいくつかあります。
- 各自、忘れないようにする。(たとえば、いつも見る場所にゴールを書いておく。)
- 定期的にみんなでゴールを確認し、ずれていたらその都度修正する。
- ゴールは少数の人だけが意識し、他の人はゴールを意識している少数の人の指示の下で行動する。
- ゴールがずれないくらい短い単位の小さなゴールに分割し、どんどん「小さなゴール設定→達成→次の小さなゴール設定→…」というサイクルを回す。
それぞれがしっかりしているなら、最初の「各自、忘れないようにする」という方法で解消できるでしょう。それがムリなら2番目の「定期的にみんなでゴールを確認し、ずれていたらその都度修正する」方法で解消できるかもしれません。他の人の助けを借りても各自が向かっているゴールを意識した行動をすることがムリなら3番目の「ゴールは少数の人だけが意識し、他の人はゴールを意識している少数の人の指示の下で行動する」という方法もあります。長めのゴールだと気付いたら違う方向を向いてしまうなら、4番目の「ゴールがずれないくらい短い単位の小さなゴールに分割する」方法もあります。
それぞれのやり方にはよいところ・悪いところがあるのでどの方法がよいかは場合によります。さらに、そもそもゴールを共有した方がよいのかどうか、という話もあります。ここではそれらについては触れません。
ここでは、2番目の「定期的にみんなでゴールを確認し、ずれていたらその都度修正する」やり方を選んだときに気をつけていることを紹介します。このやり方のときは、「今、それぞれが向かっているゴールはなにか?」を確認するタイミングが定期的に必要です。この「現在の状況を共有する」場で進行役をするときに気をつけていることです。
次のことに気をつけています1。
- 最初に会のゴールを確認する
- 会を進める前に会の進め方を説明する
- 話を聞くときはどうして聞くかを説明する
- 話を聞いているときは自分が理解したことを書く
- 話を聞いた後は自分が理解したことをまとめて話して確認する
最初に会のゴールを確認する
最初に、どうしてこの会を開いているかをみんなで確認します。つまり、今こうしてみんなで集まっている2のは「定期的にみんなでゴールを確認し、ずれていたらその都度修正する」ためです、みなさんが思っていることとあっていますか?みたいなことを最初に確認します。
基本的にみんなあっているのですが、定期的にやっていると「やっていることが当たり前」になって「どうしてやっていたんだ?」ということを忘れてしまうことがあります。そのため、念のため、毎回最初にゴールを確認します。
確認したゴールは会の中では「判断基準」として使います。「その話はこの会のゴールにつながりますか?つながらなそうなら違う機会にしませんか?」とか「今はこのゴールに向かうために話していますが、そのゴールに沿って考えるとどうするのがいいでしょうねぃ。」といった具合です。
会を進める前に会の進め方を説明する
実際に会を進める前にどのように進めるかを説明し、みんなの同意を得ます。説明した進め方が必ずしも最善の順番の流れではないかもしれないので、そんなに強制力があるものにしなくても構いません。みんなが同じ基準を持てれば十分です。途中でもっとよい進め方が見つかったらその進め方に変更してもよいものです。「それでは、次回から新しい進め方を試してみましょう」、としてもよいものです。
説明は、たとえば、「最初に、この1週間でやった作業の概要とそれがこのプロジェクトのゴールにどう結びついていたかを聞きます。次に、これからやる作業の概要とそれがこのプロジェクトのゴールにどう結びつくかを聞きます。最後に、困っていることを聞きます。」というような感じです。
進める前に進め方を説明しておくと、進めている途中で話題がそれそうになったときに方向修正をしやすくなります。たとえば、「今はこの1週間の作業について話しているので、困っていることについてはその後にしませんか?最後に困っていることを聞くタイミングがありますし。」といった具合です。
話を聞くときはどうして聞くかを説明する
みんなでゴールを確認する会なので、みんなから話を聞く機会があります。話を聞くときは「○○について話してください」、「○○についてはどうですか?」というように話を振ります。そのとき、聞かれた人が答える前に「どうして自分はそう話を振っているか」を説明します。
たとえば、「どうしてこの質問をするかというと、△△がうまくいっていたのか確認したいからです。たとえば、××ならうまくいっていないので何か対策を立てたいですし、◎◎なら問題ないので今のまま進めていきたいと思っています。」というようなことを話します。できれば、予想回答とその回答のときにどうなるかも添えます。
事前に予想回答まで話すと回答を誘導してしまう危険性があります。しかし、「何か裏があって質問されているんじゃないだろうか?とするとここではどう答えるのが正解だろう。××だと思っているけど◎◎にしておこう。」という不安を解消できるのではないかと予想しています。また、こちらが質問した意図を伝えることで、その意図に沿った情報を提供してくれる気になるのではないかという予想もしています。
事前に聞く理由も説明した方がよいかどうかはまだわかっていません。説明することを試している最中です。
話を聞いているときは自分が理解したことを書く
もし、ホワイトボードがあるなら、話を聞いているときは自分が話を聞いて理解したことの要点を書きます。自分だけが見える手元のノートに書くのではなく、みんなが見える場所に書いていくことがポイントです。
同じ話を聞いていても、人によって違う解釈をすることはよくあります。みんなが見える場所に要点を書きながら聞くことで、違う解釈をしているか気づきやすくなります。話している人が違う解釈をされていると気づくこともありますし、他の話を聞いている人が自分は違うように解釈していると気づくこともあります。
これは、より多くどのくらい伝わっているかを、話している人と話を聞いている人にフィードバックする方法です。うなずきながら話を聞くという方法も話している人に伝わっている感をフィードバックする方法ですが、それよりも具体性があり、フィードバック対象が多いフィードバックです。
書きながら話を聞いている人が話をしている人に質問するときは、「この人は単純にわからないから、自分の話を理解するために質問しているんだな」感が増すのではないかと仮説を立てています。質問すると、(そんなわけではないのに)「なにかアラを探しているんじゃないか…」感を持たれている人にとって、これは役に立つ効果でしょう3。
話を聞いた後は自分が理解したことをまとめて話して確認する
話を聞いた後は、自分が理解した要点を話してあっているかを確認します。たとえば、「今の話は、できれば肉の日にリリースしたい、ただし機能は減らす必要がある、ということであっていますか?」という感じです。
聞いた後に確認する理由は次の2つです。
- 理解した内容が間違っているかもしれない。間違っていたら早めに修正したい。
- 他の人にも伝えたい。
最初の理由は追加で説明する必要はありませんが、2つめは補足します。
質問をして話を聞いているときは、話をしている人は質問した人に向かって答えます。聞かれた人に向かって答えるのは当然ですね。そうすると、質問した人ではない人は横から話を拾い聞きすることになります。そうすると、自分(質問した人ではない人)は話がピンとこないけど質問した人はピンときてそうなときに、「今のところがわからなかったからもう少し説明してもらえないか」と聞きにくくなります。また、単純に聞こえなかったり聞きそびれることが増えます。
質問した人が話を聞いた後に確認をすると、もう一度話を聞く機会ができるので、理解しそこねたことを補完できます。確認したあとに「みなさんには伝わりましたか?大丈夫ですかねぃ。」と聞くと、それでもピンとこなかった人が質問するタイミングができます。ここで質問がでてピンとこないところが解消できれば、認識が違って話がかみ合わないことが減ります。
まとめ
「現在の状況を共有する」場で進行役をするときに気をつけている次のことを紹介しました。
- 最初に会のゴールを確認する
- 会を進める前に会の進め方を説明する
- 話を聞くときはどうして聞くかを説明する
- 話を聞いているときは自分が理解したことを書く
- 話を聞いた後は自分が理解したことをまとめて話して確認する
試している最中なので、これらすべてが説明したような効果があるかはまだわかっていません。しかし、全体として前よりはうまくできるようになった感触はあるので紹介しました。