この新しいコーナー「ノータブルコード」では、私たちが開発の折々に目にした興味深いコードをご紹介しています。世の中の実際のプロジェクトから、興味深い素材を肩の凝らない形でご紹介していきたいと思いますので、楽しみにしていてください。
Brubeck - 創造的なコメントで見通しを良くする
第2回目に紹介するのは、GitHubが開発したStatsD互換サーバー Brubeck からの一コマです。
int brubeck_statsd_msg_parse(struct brubeck_statsd_msg *msg, char *buffer, char *end)
{
*end = '\0';
/**
* Message key: all the string until the first ':'
*
* gaugor:333|g
* ^^^^^^
*/
{
msg->key = buffer;
msg->key_len = 0;
while (*buffer != ':' && *buffer != '\0') {
/* Invalid metric, can't have a space */
if (*buffer == ' ')
return -1;
++buffer;
...
https://github.com/github/brubeck/blob/master/src/samplers/statsd.c#L140-L241
このコードが面白いのは、ずばりコメントの付け方です。
そもそもC言語でパーサを書くのは、非常に面倒な仕事です。RubyやPythonなどのより高級な言語と比べると、その手間のかかり具合は歴然としています。例えば、メッセージを単語に分割する処理ひとつ取っても、Pythonならmsg.split(" ")
と書けば簡潔に記述できるのに対して、C言語だと「文字列の先頭から空白文字を探索し、見つかったらノードを初期化して連結リストに追加して次に進む。見つからなければ...」というように 『手続きの積み重ね』 として表現する必要があります。
これは書くのも面倒なら、読むのも大変なコードです。プログラムの作成者の意図は手続きの積み重ねの中に隠れてしまっているので、他の開発者はコードを地道に追うことでそれを読み取るしかないからです。
Brubeckのコードが斬新なのは、このC言語の技術的な制約をコメントの付け方によって回避している点です。冒頭にコードの一部を引用していますが、Brubeckの開発者はブロックごとに「いまここではプロトコルのこの部分を解析しています」というコメントを付与することで、書き手の意図を読み手に伝える戦略を選びました。
ポイントをはっきりさせるため、コードの一部を取り出して構成を以下に図示します。冒頭のコメントが後続する処理の宣言になっていることが明解に見て取れると思います。
私たちは、このコードに感銘を受けたので、自分たちのStatsDパーサでも同じようなブロックコメントを付けることにしました。
開発の現場では、時としてコメントは「おまけ」として扱われがちですが、創造的な使い方をすることで、コードの読みやすさを一変させることができるのだ、というのが今回の連載の要点です。
補足: 関連するテクニックについて
このBrubeckの手法に似ているものとして、コミットメッセージの中で記号を使って、変更内容を視覚的に示すというテクニックがあります。
こちらについては、過去記事「わかりやすいコミットメッセージの書き方」 の中で紹介しているので(記事中の「英語だけで表現することにこだわらない」の節を参照)、興味のある方はご一読ください。