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Firefox ESR68の法人ユーザーは、Firefox ESR78にどう備えるべきか?

来たる6月30日、Firefox ESR78がいよいよ正式にリリースされます(予定)。ESR版としてや1年ぶりのメジャーアップデートです。現時点で既に(ESR版ではなく一般向けの)ベータ版が利用可能になっているため、そろそろ検証を始められている情シス担当の方も増えてきているのではないでしょうか。

Firefox ESR68からの変更点は多岐に渡りますが、その中でも、この記事では法人利用の場面において影響があると考えられる変更点をご紹介します。

移行作業のスケジュール

最初に、スケジュールについておさらいしましょう。

詳細はMozilla Wikiのリリースカレンダーに記載されていますが、端的には、Firefox ESR78への移行は日本時間で2020年9月23日までに完了させることが強く推奨されます

Firefox ESR78.0正式版がリリースされた後も、Firefox ESR68のサポートはしばらく継続します。具体的には通常版のFirefoxのリリース3回分1まではFirefox ESR68のセキュリティアップデートが提供される予定となっています2。このサポート期限が太平洋標準時で2020年9月22日、日本時間では9月23日ということになります。

トラッキング保護機能の強化・改善

Firefoxには以前からトラッキング保護機能が含まれていて、Webサイトによる行動履歴の収集を回避できるようになっています。しかし、この機能はESR68までは初期状態では無効で、有効になるのはプライベートブラウジングウィンドウを使っている時だけでした。

Firefox ESR78では、トラッキング保護機能がプライベートブラウジングウィンドウ以外でも初期状態で有効になっています。また、ブロック対象が拡大され、以下のトラッキング手法もブロックされるようになりました。

  • サードパーティのトラッキングCookie

  • 暗号通貨の採掘スクリプト(トラッキングとは別の文脈ですが、トラッキング保護の一環としてブロックされます)

  • フィンガープリンティングのためのスクリプト

  • SNSによるトラッキングのためのスクリプト(Facebook、Twitter、LinkdIn)

訪問したWebページでどのようなトラッキング手法が実際にブロックされているかは、アドレスバーの盾アイコンをクリックすると確認できます。 (トラッキング保護の状態を表示した様子のスクリーンショット)

この機能は法人利用では、プライバシー保護よりはトラフィック削減の観点から有用性が期待できます。というのも、昨今の多くのWebページにはトラッキングスクリプトが含まれており、この事がネットワーク帯域の消費量増につながっているからです。

ただし、トラッキング保護機能の動作はブロックリストに基づいており、機能を使うにはリストが定期的に取得・更新されている必要があります。法人利用では、バックグラウンドで行われる無用な通信の削減を目的として、ブロックリストの取得も禁止している場合がありますが、その状態ではトラッキングブロック機能は有効に機能しないので、運用ルールの見直しが必要になります。

定期的に取得されるブロックリストのデータサイズは、本稿執筆時点では非圧縮状態で250KB程度でした。ブロックリストは1時間に1回の頻度で更新がチェックされ、リストが更新されていた時にだけ実際にダウンロードが行われます。このブロックリストによって実際にどの程度のトラフィック削減効果を得られるかは、状況や閲覧するWebサイトによって変わりますので、できれば試験運用で効果を測定してから判断したい所です。

OSの認証機構や証明書データベースとの連携の強化

Firefox ESR78ではWeb Authentication HmacSecret拡張により、Windows 10の2019年5月版以降で、Windows Helloによる指紋認証や顔認証などのパスワード非依存の認証をWebサイトでも使えるようになりました。実際に使うにはWebサイト側の対応が必要なので、パスワード認証のWebサイトが突然顔認証可能になるというわけではないのですが、SaaS形式のWebサービスなどでは今後利用可能になっていくと考えられます。

OSの認証処理との連携強化は、パスワードマネージャの動作にも反映されています。具体的には、パスワードマネージャに保存したパスワードを閲覧する際にOSの認証を求められるようになり、その際には顔認証などを利用できるようになっています。

また、実験的な機能として、security.osclientcerts.autoloadを有効化することによって、WindowsとmacOSでOSの証明書ストアにあるクライアント証明書を利用できるようになりました。これまでFirefoxでクライアント証明書を使うためには、既にWindows自体の証明書データベースにクライアント証明書がある場合でも、それとは別にFirefoxの証明書マネージャを使って手動で証明書を登録する必要がありましたが、このような運用を簡略化することができます。OSの証明書ストアにあるエンタープライズのルート証明書は、Firefox ESR60以前からすでに自動インポート可能になっていましたので、OSの証明書ストアとの連携がさらに強化されたと言えます。

その他、セキュリティに関わる変更

セキュリティに関する変更の中で目立つのは、SSL/TLSで接続しているWebサイトの表示の仕方が変わったという点です。 (スクリーンショット、リンク先記事から引用)

  • 安全でないHTTP→斜線で打ち消された錠前アイコン

  • EV SSL→グレーの錠前アイコン

これは、Googleなどによって進められている「常時SSL化」の流れを承けての、より安全な状態を標準的な状態として取り扱うようにする変更です。Webサイトの安全性そのものが変化したわけではありませんが、「偽サイトに誘導されてしまったのか?」とユーザーが誤解する恐れはりますので、問い合わせが増加しても大丈夫なように備えておきましょう。

逆に、反映が見送られたセキュリティに関わる変更としては、「TLS1.2以上の強制(TLS 1.0/1.1を無効)」があります。これは、医療情報を提供する公のWebサイトにまだTSL 1.0/1.1で提供されている物がある可能性があるためで、新型コロナウィルスの感染拡大とそれに伴う混乱が収束するまでは変更を保留する、という判断に基づいています。

とはいえ、TLS 1.0/1.1には脆弱性があり、暗号化された通信内容が盗聴されてしまう恐れがある、という事実は変わりません。自社のWebサイトでTLS 1.0/1.1を使っていないかを改めて確認し、もしあれば早急にTLS 1.2以上へ移行するようにしましょう。

DNSでの名前解決をより安全にする「DNS over HTTPS」については、米国地域の英語版Firefoxユーザーに対しては設定が既定で有効化されますが、それ以外の地域・言語では無効となっています。この点はFirefox ESR78でも同様です。とはいえ、正式リリースまでの間に判断が変わる可能性も無いとは言い切れませんので、運用上の懸念がまだ残っている場合は、過去記事で紹介した無効化手順に則って機能を無効化するのがお薦めです。

Flashや動画/音声を使用したWebページの動作について

Firefoxのプラグイン対応は段階的に廃止が進んでおり、Firefox ESR68の時点ではAdobe Flash以外のプラグインは機能しなくなっています。この一環としてFirefox ESR78では、従来可能であった「ページを読み込んだ時点で自動的にFlashコンテンツを再生する」動作が廃止されました。今後は、Flashコンテンツの再生には必ずユーザーによる明示的なクリック操作が必要となります。業務でFlashを使用していて、クリック操作無しでの再生を前提に運用している場合は、影響に注意してください。

Firefox ESR78では、音声を伴う動画のみ自動再生を禁止するという既定の動作に加えて、音声を伴わない動画も含めてすべての自動再生を禁止する動作が可能になりました。media.autoplay.default5 に設定すると、すべての動画の自動再生をブロックするようになります。この設定は、ネットワークトラフィックの削減に有効である可能性があります。

動画に関連した変更としては、専用のアプリケーションの導入なしにFirefoxだけでビデオ会議サービスの「Zoom」を利用できるようになった、という改善もあります。ビデオ会議通話の需要が増加した昨今なので、この変更は運用コストの低減に繋がるかもしれません。

外部のアプリケーションやシステム管理者がアドオンを組み込む際の方法の変更

Firefox ESR68までのバージョンでは、C:\Program Files\Mozilla Firefox\browser\extensions にアドオンのファイルを設置したり、Windowsのレジストリに情報を記載したりすることで、ユーザーがアンインストールできない形でアドオンをインストールさせる事ができました3。Firefox ESR78からは、この形式でのインストールが制限されるようになります。

具体的には、この方法でインストールされたアドオンは、従来であればそのまま読み込まれていましたが、今後は「ユーザーがそのアドオンをインストールしたのと同じ状態」に自動的に変換されるようになります。ユーザーが任意でアドオンをアンインストール可能になるので、アンインストールされては困るアドオンを全社的に使用している場合、過去記事で紹介した代替手法による対策が必要です。

実は、更新チャンネルがESR版に設定されているビルドでは従来通りのサイドローディングが有効な状態になっています。そのため、従来通りの運用を続ける事も不可能ではありません。

しかしながら、サイドローディングを有効にするかどうかはFirefoxのビルド時の指定で決定されるため、Firefox 78のベータ版では動作を確認できません。サイドローディングを使った運用を継続したい場合には、動作の検証はFirefox ESR78.0の正式版がリリースされるのを待って行う必要があります。

まとめ

以上、Firefox ESR68からFirefox ESR78の間での変更点のうち、法人利用に影響があると考えられるトピックをご紹介しました。

Firefox ESR78より未来のことは現時点では未知数の部分が多いですが、注視する必要がある今後の変更の1つとして、Windowsのタスクスケジューラを使ったバックグラウンドでの自動更新があります。恐らく、来年リリースされるであろう次のESR版からはこの変更が反映されるものと予想されます。法人利用では自動更新を無効化して運用する事例が多いので、タスクスケジューラに基づく自動更新の停止方法は気になる所でしょう。当社のお客さまにも影響があるため、今後何か新しい事が分かり次第、改めて調査してこのブログで解説する予定です。

当社の法人向けFirefoxサポートサービスでは、Firefoxの新しいバージョンがお客さま環境での運用状況にどのように影響を与えるかなど、総合的な調査も必要に応じ承っております。Firefoxを運用していて、先手先手で新バージョンへの対応を進めていきたいとお考えの企業さまがいらっしゃいましたら、お問い合わせフォームよりご相談ください。

  1. 以前は通常版のリリース2回分まででしたが、リリースサイクルの短縮と帳尻を合わせるためか、リリース3回分に延長されています。ただし、日数としてはFirefox ESR68のリリースからFirefox ESR60のサポート終了までが105日間あったのに対し、Firefox ESR78のリリースからFirefox ESR68のサポート終了までは84日間となっていて、実質的な期間は短くなっています。

  2. なので、例えば「9月21日にFirefox ESR68.13がリリースされる」という可能性も0ではありません。

  3. このようなインストール方式を「サイドローディング」と呼びます。