結城です。
ノータブルコードに便乗して、実際のOSSのフィードバックを見て「ノータブルフィードバック」と題してお届けする記事の6回目として、今回は、[株式会社アカツキさんの社内で実施したOSS Gateワークショップ][20190529]の中で実際に行われた、Webページ上でマウスカーソル(ポインタ)をかざした位置の語句を辞書で引いて結果をポップアップ表示する「Mouse Dictionary」というGoogle Chrome/Firefox用の拡張機能での、「初回使用時にポップアップが真っ白になってしまう」という現象に対するフィードバックをご紹介します。
実際の報告
■タイトル White screen shown in the first boot ■説明 Steps to Reproduce [[" 1. Install Chrome (ver. 72.0.3626.109 Official Build 64bit) into MacOSX 10.14.3 ."], [" 1. Install Mouse Dictionary (ver. 1.1.9) from Chrome Web Store."], [" 1. Click extension icon of Mouse Dictionary, and open the popup window."], [" 1. Point any English term."]] Expected Result [[" * Shown translated sentence of English term in the popup window."]] Actual Result [[" * White screen shown in the popup window."]] Suggestion [[" * Add how to installation (ex. "Open option menu on the first boot.") in the store page."], [" * Or, add description (ex. "Not initialized. Please open option menu.") in the not initialized popup window."]]
再現手順 [[" 1. MacOSX 10.14.3 に、Chromeのバージョン:72.0.3626.109(Official Build)(64 ビット)をインストールする"], [" 1. chromeウェブストアから Mouse Dictionary (バージョン:1.1.9) を拡張機能としてインストールする"], [" 1. 拡張機能一覧から Mouse Dictionary のアイコンをクリックして、ポップアップウィンドウを立ち上げる"], [" 1. ポップアップウィンドウが立ち上がった状態でウェブページ内の任意の英単語にマウスカーソルを合わせる"]] 期待する結果 [[" * Mouse Dictionary のポップアップウィンドウに、翻訳結果が表示される"]] 実際の結果 [[" * ポップアップウィンドウ内は白紙のまま、何も表示されない"]] 提案 [[" * 最初にオプションメニューを開くことが必須ということを、ストアページの説明文に記載してはどうでしょうか"], [" * もしくは、辞書情報が登録されていないのでオプションメニューを開かなければならない旨を、ポップアップウィンドウに表示してはどうでしょうか"]]
注目したい点
日本語でも書く
OSS Gateワークショップの中で行ったフィードバックなので、報告の仕方は「再現手順、期待する結果、実際の結果」という基本のフォーマットに則っています。
ここで注目したいのは、本文を英語と日本語の2パターンで書いているということです(ここに掲載するために翻訳したのではなく、元々の報告の時点で両方載っています)。これは、説明文からリンクされている開発者の方による解説記事が日本語で書かれており、作者の方が日本語話者の方だということが分かっていたためです。
OSSへのフィードバックは、書ける場合は英語で書いておいたほうが望ましいです。というのも、英語を読み書きできる人と日本語を読み書きできる人とでは前者の方が圧倒的に数が多く、日本語だけで報告を書いていると、同じ問題に遭遇した人が「既存の同様の報告」にたどり着けない恐れがあるからです。
とはいえ、英語を書くことに不慣れな人は、自分の伝えたかったことをきちんと英語で表現できているか不安なものです。この事例のように作者の方が日本語話者と分かっている場合には、両方の言語で報告を書いておくことで、万が一の場合の誤解を防げるという安心感を持って報告できるでしょう。
使い始めのつまずきを報告している
第1回でとりあげたOCamlへのフィードバックでは、インストール後のバージョン確認の手順の間違いをフィードバックしましたが、今回もそれと同様に、初めて使うときにつまずく人の多そうな点をフィードバックしています。
一般ユーザーでも開発者でも、「説明書を読まずに使い始める」人は一定数います(筆者もそうです)。そのような人にとっては、説明を読んで使うことが前提のツールは使い始めていきなり「詰んで」しまう、ということになりがちです。初期化用のウィザードやチュートリアルはその最も丁寧な対応の例ですが、そこまで凝った対応でなくても、この提案のように「案内のメッセージを出す」だけでも、ほとんどのユーザーにとっては大きな助けになるでしょう。
提案も書く
また、報告の最後に 「提案」として改善案を示している ところもポイントです。操作に対する「期待される結果」は「翻訳結果が表示されること」なのですが、初回使用時という場面では、初期設定なしにそのような結果を得るのは難しいです。そこで、この報告では次善の策として、ユーザーがしなければならないことの案内を明示するのはどうか、と提案しています。
開発者側で気を回して「こうなっているといいのでは」と推測して実装した結果が、実際のユーザーのニーズに合致していなかった、ということは度々あります。ユーザー自身が「どうなっていると嬉しい」という内容を詳しく伝えることで、そのような無駄足を踏まずに済むと言えます1。
まとめ
ノータブルフィードバックの6回目として、Google Chrome/Firefox向け拡張機能の初回使用時の動作についてのフィードバックをご紹介しました。
このような「身近なところで遭遇したつまずきをOSS開発プロジェクトにフィードバックする」ということをテーマに、まだOSSにフィードバックをしたことがない人の背中を押す解説書 「これでできる! はじめてのOSSフィードバックガイド ~ #駆け出しエンジニアと繋がりたい と言ってた私が野生のつよいエンジニアとつながるのに必要だったこと~」を、電子書籍としてリリースしました。本記事の内容はこの本からの抜粋となっています。4月5日までオンライン開催されている「技術書典 応援祭」内のマーケットにて紙版+電子書籍(または電子書籍のみ)を購入頂けますので、ゆっくりオフラインで読みたい方はぜひチェックしてみて下さい。
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ただ、開発者側の視点では、ユーザーから寄せられた提案にそのまま従うことが必ずしも正解とは限らない、ということも言えます。というのも、ユーザー自身の発想が特定の場面やそれまでの経験に囚われている場合、言葉として表現された物が本来のユーザー自身のニーズからかけ離れてしまっていることがあるからです。開発者はユーザーからの提案を判断材料の一つとしつつ、その提案が発せられた背景をきちんと分析し、常に最適な解決策を考えるよう努める必要があります。 ↩