本業の傍ら、「クリアコードをいい感じにする人」として働いているたなべです。「クリアコードをいい感じにする人」とは何かについては過去に『「クリアコードをいい感じにする人」の採用を開始』という記事や採用情報の『「クリアコードをいい感じにする人」』にて解説されています。
今回はその活動の中で最近取り組んでいる「共有するほど皆が得するモデルをつくりたい」という取り組みを説明します。興味を持ってくれる人・助けてくれる人と話すきっかけになることも期待しているので、記事を読んで話を聞いてみたい・してみたいと思った方は sunao.tanabe@gmail.com 宛に連絡をください。
「共有するほど皆が得するモデル」とはなにか
「共有するほど皆が得するモデル」とは、ソフトウェアに関わる人が増えれば増えるほど、そのソフトウェアに関わる人が得をするという、関わる人の増加と得られる恩恵に正の相関がある状態のことを指しています。
そして、そのような状態を実現するソフトウェアと周辺の仕組みのことを「共有するほど皆が得するモデル」と呼んでいます。
この記事では、「共有するほど皆が得するモデル」をなぜつくりたいのか、つくろうとしているものはどのようなものか、どのようにつくろうとしているかの WHY, WHAT, HOW を順に説明していく構成で、「共有するほど皆が得するモデル」をつくる取り組みについて説明をします。
WHY: 共有するほど皆が得する選択肢があれば、独占的にせず自由なライセンスを選ぶ人が増えるはず
昨今、自由なライセンスで提供されていたソフトウェアが、独占的なライセンス (競合など一部の利用への制限を含む) を選択するという流れが出てきています。個々には、パッケージソフトウェアという提供形態からサービスとしてのソフトウェア (IaaS, SaaS) という提供形態へソフトウェアを取り巻く環境が変わってきたという背景があったり、外的な脅威によって選ばざるを得なかったケースがあったり、それぞれの判断をする必要があるだけの理由があったのだと思います。
ただ、もし仮にそこに共有するほど皆が得するという新たな選択肢があったとしたら、元々自由なライセンスを選んでいたソフトウェアが不自由なライセンスを選択することはなく、共有するほど皆が得する自由なライセンスを選ぶことができたのではないか、というのが問題意識のスタートです。
そこには、わざわざユーザーの自由を制限する不自由なライセンスを選ぶ背景には、提供者の経済的なメリットを得たいというモチベーションがあり、そのための手段が独占的に自由を制限することしかないというのが選択肢を狭めているのではないかという予想があります。
そこへ自由なライセンスであっても経済的なメリット (などの何かしらの得) を得られる新しい選択肢を提示できるようになれば、不自由なライセンスを選ばなければいけない理由はなくなり、自由なソフトウェアを選択する流れが強まるのではないか。そのために「共有するほど皆が得するモデル」という選択肢を開拓したいというのがモチベーションです。
そして、クリアコードは「フリーソフトウェアとビジネスの両立」を理念とする会社です。新しいビジネスとして、「共有するほど皆が得するモデル」のビジネスをつくっていくことができれば、それがクリアコードとしての未来にもつながっていきます。
WHAT: どのようなものが「共有するほど皆が得するモデル」かは模索の段階
では、「共有するほど皆が得するモデル」とは具体的にどのようなものになるでしょうか。
本当ならここで具体的に「共有するほど皆が得するモデル」の実装を説明したいところなのですが、残念ながらまだこれこそ「共有するほど皆が得するモデル」だという案がありません。今はそれを見つけようと情報を収集したり、ああでもないこうでもないと検討をしている段階です。
本音を言えば、机上でこねくり回してもあまり良い案にたどり着くとも思えず、なにか良いアイデアとまでは言えないものでも近しいものを試して走りながら考えるという過程をとったほうが良いだろうとは思っているのですが、とっかかりになる動きもとれていない状況です。
とはいえ、何も具体的なサンプルがないとイメージも湧かないと思うので、議論の中で出ていた見解をいくつか紹介をしてみて、「共有するほど皆が得するモデル」とは何であって何ではないのかを想像する手掛かりを提供してみます。ただし、ここで紹介するものはあくまで過程のものなので、本当にその解釈で評価していくのが良いのか、今の解釈は後に覆されるのかはまだまだわからないというものです。過程を知って一緒に考え、楽しむ気持ちで読んでみてください。
仮説 1. プラットフォーム型の事業モデルは「共有するほど皆が得するモデル」ではない
プラットフォーム型の事業というのがあります。Apple や Google がスマートフォンで提供しているマーケットプレイスのようなものが一例です。共有するほど皆が得するということで真っ先に思いつくのはプラットフォーム型のモデルですが、これは「共有するほど皆が得するモデル」にはならない可能性が高いと考えています。プラットフォーム型のモデルはプラットフォーマーとして独占するほどプラットフォーマーが利益を得るという傾向があるためです。
「共有するほど皆が得するモデル」は限られた人だけが利益を得るというのではなく、裾野が広がり共有が進むほど全体の利益が大きくなるものであるのが良いでしょう。
仮説 2. ソフトウェアにマネージドなサービスとして提供できる何かをセットして提供するのは「共有するほど皆が得するモデル」ではない (形態をやや変えたら可能性もあるかもしれない)
マネージドなサービスの提供形態にもよりますが、主要な IaaS の会社で提供されているマネージドなサービスは、利用する機能自体は自由なライセンスで提供されているソフトウェアであっても、それをマネージドで提供する仕組み自体はユーザーが利用したり変更をすることができません。そうして、マネージドなサービスとして提供すること自体に課金をしているため、競合に対して仕組みを隠す (結果、ユーザーからも不自由になる) という選択をとっています。こうして考えると、マネージドなサービスは「共有するほど皆が得するモデル」にはならないと言えます。
ただ、ここにはいくつかの変更の余地と可能性もあります。たとえば、マネージドなサービスを3つのソフトウェアとして考えます。まず、機能を提供するアプリケーション、次にアプリケーションを動かすためのインフラに当たるソフトウェア (IaaS)、そしてその二つをマネージドにするための仕組みに当たるソフトウェアです。このときに、アプリケーションのためのソフトウェアは自由なライセンスで提供します。次にインフラに当たる部分です。従来のマネージドなサービスでは主に IaaS の提供者がインフラを提供し、そこはユーザーからはブラックボックスでした。このインフラのオーナーをマネージドなサービスの提供者からユーザーに変更します。AWS や GCP をユーザーが契約し、インフラのレイヤーでもユーザーが自分の使うソフトウェアをコントロール可能にします (あるいはより強い自由を求めるのなら、クラウドの製品を使うのでなく、自由なソフトウェアで構成されたユーザー自身の環境を使用すればよいでしょう)。そして、最後のマネージドにするための仕組みです。これを自由なライセンスで提供し、その仕組みを使ってインフラの上でマネージドに運用をします。この運用を提供する部分をビジネスとして行う場合、ユーザーの使うソフトウェアの自由が守られている中で、ソフトウェアの普及が進むほど、関わる人たちが得をする (インフラの利用において、ユーザーは IaaS のマネージドサービスよりも強い権限を持つことができ、さらに運用の選択肢が増える。マネージドな仕組みを提供する人は運用をしてほしいユーザーが増え、運用を効率化するほど自分たちのビジネスの効率もよくなる) という状況がつくれるかもしれません。
仮説 3. 限られたパイを奪い合うのでなく、共有するほどパイが広がるのであれば独占的に奪い合う必要がなく「共有するほど皆が得するモデル」になる
なぜユーザーの自由を制限してまでも独占的にお金を稼ぐ選択を取る必要があるかというと、それは限られたパイの中でユーザーを奪い合う必要があり、同じソフトウェアを提供する存在が競合になってしまうからです。ここで仮にパイが限られたものではなく、共有するほどパイが大きくなり奪い合うことなくユーザーが得られるのだとしたら、どうなるでしょうか? おそらく、同じサービスを提供する存在を競合だと考えることなく、共にソフトウェアの発展を推進して、ソフトウェアの発展によって新しいユーザーを獲得することへ集中できるのではないでしょうか。これが、一つの「共有するほど皆が得するモデル」の可能性です。
ここでの壁はどうやったら共有するほどパイが大きくなり奪い合うことなくユーザーが得られるという状況をつくれるのかです。
HOW: リサーチと具体的なニーズを検証しながら進めたいので、興味を持ってくれる企業や人を募集中
「共有するほど皆が得するモデル」の特徴が朧げながらに見えてきました。このような前例のないビジネスを、どのように実現して具体的な検証を進めるのでしょうか。
WHAT の項で説明した内容は実際に「共有するほど皆が得するモデル」を議論する中で出てきた話をまとめたものです。このように机上でも多少のイメージをつくっていくことはできます。ただ、あくまで机上の論理でしかなく、世の中にそのようなニーズを抱えたユーザーはいるのかやはたしてそこへ実際にお金を払うユーザーがいるのかといったことは想像の域を出ません。
『リーン顧客開発』では、このような机上の想定に対して実際にユーザーへリサーチをしながら検証をしていくというプロセスを取ります。「共有するほど皆が得するモデル」の探索は、ソリューション起点の事業開発になります。だからこそ、リーン顧客開発のプロセスのようにユーザーへ意見を聞きながら想定を検証していくステップを踏みたいのですが、今はあまりユーザーとなる可能性のある人や企業が固まっていません。
もしこの記事を読んで、「共有するほど皆が得するモデル」へ興味や関心が湧いた方、世の中に自由なライセンスであっても経済的なメリットを得られる新しい選択肢を加えていけるほうが良いと共感してもらえた方、ぜひ話をさせてください。提案をできる商材があるわけではないので、「共有するほど皆が得するモデル」についての感想や意見を聞かせてもらいたいというのが目的です。まずはテキストで確認をしてみたいことがあるくらいの気軽な連絡でもいいので、興味のある方は sunao.tanabe@gmail.com 宛に連絡をくださるとうれしいです。
まとめ
「共有するほど皆が得するモデル」をつくっていきたいという今の活動について、その動機や今考えている内容について説明をしました。ユーザーが自分が使うソフトウェアをコントロールできるというユーザーの自由を守りながら、皆が得する選択肢を増やしていくために、今後も定期的に状況を公開しつつ進めていきます。